池松壮亮&伊藤沙莉出演『ちょっと思い出しただけ』松居大悟監督インタビュー
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WE NEED GOOD CINEMA "Just Remembering " 池松壮亮&伊藤沙莉出演『ちょっと思い出しただけ』松居大悟監督インタビュー

テレビドラマ、演劇、映画監督など、様々な分野で物語を生みだしてきた松居大悟。 脚本・監督を手掛けた新作映画『ちょっと思い出しただけ』は、「物語っぽくならないこと」を目指したという。その出発点は、親交が深いバンド、クリープハイプの尾崎世界観から「一緒に何かやりたい曲ができた」と渡された曲、「ナイトオンザプラネット」だった。

interview & text
Murao Yasuo

松居大悟

監督・俳優。1985年11月2日生まれ。 劇団ゴジゲン主宰。代表作に『私たちのハァハァ』、『アズミ・ハルコは行方不明』『くれなずめ』など。

「普段通りの何気ない日々、見落としてしまいがちな風景を描きたかったんです」

「これまでクリープハイプのミュージック・ビデオを作ってきたんですけど、いつも曲を聴くとビデオのアイデアが浮かんだんです。でも、今回はまったく浮かばなかった。曲がこれまでの感じと違ったんです。尾崎くんはジム・ジャームッシュの映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』を観てバンドをやろうと思ったそうで、その映画を曲名にしているところから、この曲にバンドとして勝負をかけている気がしたんです。その気持ちに、しっかり応えたいと思いました。それで、この曲が最後に流れるような長編を考え始めたんです」

松居が感じた「いつもと違う感じ」とは、曲から伝わる「ストレートな優しさや素直さ」だったという。その感覚を大切にしながら思いついたのが、怪我でダンスを諦め たダンサーの照生と、タクシー運転手、葉の物語。演じるのは池松壮亮と伊藤沙莉だ。2021年の照生の誕生日からはじまり、毎年、照生の誕生日のエピソードが描かれて、二人の別れから出会いへと遡っていく。

「恋愛映画って、だいたい最後に別れて悲しく終わるじゃないですか。それは嫌だなと思ったので、出会いに向かっていく話にしたかった。それで、過去を思い出すという構成にしたんです。そして、ジャームッシュの『ナイト・オン・ザ・プラネット』が、同じ時間にいろんな場所で起こった物語だったことからヒントを得て、毎年、照生の誕生日に起こった出来事を描こうと思ったんです」

「今回はそこで起こっていることを物語っぽくしたくなかった」

さらに、それぞれのエピソードを描く時に心掛けたのが、よくあるラブストーリーのようにドラマティックにしないことだった。

「その日は特別な日にしないようにしようと思いました、例えば、付き合い始めた日とかにすると特別感が出てしまうじゃないですか。今回はそこで起こっていることを物語っぽくしたくなかった。普段通りの何気ない日々、見落としてしまいがちな風景を描きたかったんです」

6年間に渡って恋人たちの何気ない一日を描く。その日常に向けた繊細な眼差しは、コロナの影響で当たり前だと思っていた日常が揺らぎ始めた今だからこそ、心に響くものがある。

「コロナの中で2年間、台本を書いていたことも影響していると思います。オリンピック期間中に撮影をしていたのですが、ロケをするとマスク姿の人たち映り込むんですよ。そういう街の様子も撮影することで、今の時代を記録しておこうと思って、2021年から始まる物語にしたんです」

恋人たちの特別な物語を描くのではなく、さりげない日常を通じて、観客一人一人が自分の過去を、自分の物語を「ちょっと思い出す」。そんな等身大の作風 はジャームッシュの作品に通じるところもありますね、と松居に伝えると「嬉しいです」と微笑んだ。

「ジャームッシュの映画って、観ていて肩の力が抜けるんですよ。そして、物事を俯瞰して見ることができる。今の時代はいろいろ大変だけど、人と会うことのありがたさや嬉しさが改めてわかった。それって、すごく良いことだと思うんですよ。だからこの映画を通じて、今の時代を苦しいと思わず、人と会うことの大切さを感じてもらえたら嬉しいですね」

『ちょっと思い出しただけ』

公式サイト
https://choiomo.com
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか、公開中
監督:松居大悟
出演者:池松壮亮、伊藤沙莉ほか
配給:東京テアトル
©︎2022『ちょっと思い出しただけ』製作委員会