BEST DISC OF THIS MONTH 今月のおすすめ音楽
クルーエル読者におすすめしたい音楽をご紹介。心を揺さぶる音楽の力は偉大です。
- text
- Murao Yasuo
『THE GREATER WINGS』ジュリー・バーン
悲しみを乗り越えて生きる喜びを歌う
独学で音楽を学び、アメリカ中を旅をしながら歌ってきたNYのシンガー・ソングライター、ジュリー・バーン。前作『Not Even Happiness 』(2017年)が絶賛された彼女は、ピアノ、ハープ、ストリングスなど、楽器を新たに導入して新作に挑んだが、その直後、彼女の創作パートナーで恋人でもあったエリック・リットマンが死去。立ち直るまで半年間、何もできなかった彼女は、シガー・ロスの作品を手掛けてきたアレックス・ソマーズをプロデューサーに招いてアルバムを作り上げた。アコースティックな楽器とシンセの音色が溶け合って生み出される、透明感溢れる幻想的なサウンド。ジュリーの優しく繊細な歌声を神秘的な静けさが包み込む。大切な人を失った悲しみを乗り越えて、生きる喜びを歌に託した美しいアルバム。
Profile
JULIE BYRNE
ニューヨーク州西部で育ち、現在はニューヨーク・シティに住むジュリー・バーンは、多くの場所を故郷としてきた。放浪者のフォークの系譜に連なる彼女の詩的で喚起的な曲作りは、旅先からイメージを引き出し、友情、愛、喪失からのインプレッションによって形作られる。2014年、シカゴのレーベル、Orindalから初のフルアルバムを発表した。『Bunny』ビーチ・フォッシルズ
キラキラしたギター・ポップ
2010年代のUSインディー・シーンで人気を集めたNYのバンドが6年ぶりに新作を発表。バンドの中心人物、ダスティン・ペイサーの家族が抱える問題、父親になることの喜びなど、個人的な想いを、甘いメロディーとキラキラしたギター・ポップ・サウンドに乗せて歌う。ダスティンのソングライターとしての成長を伝えると同時に、デビューの頃から変わらない瑞々しさも感じさせる曲は粒ぞろい。ジャケットの可愛いウサギは生まれた娘へのオマージュなのかも。
『SUPERMODELS』クロード
日記のようなポップ・ソング
デビュー作で注目を集めたブルックリンのシンガー・ソングライターの2作目。最近手に入れた中古のピアノとギターを使ってアパートの一室で作り上げた曲は、日記のようにパーソナルなことを題材にしていて、そこにはフレッシュなポップ・センスが息づいている。グランジ風のバンド・サウンドで疾走したかと思うとギターの弾き語りで囁きかけたり。ナイーヴだったり、ハッピーだったり。曲ごとに様々な表情を見せるフレンドリーな歌に才能のきらめきを感じさせる。
『My Back Was A Bridge For You To Cross』アノーニ・アンド・ザ・ジョンソンズ
ビョークも涙した歌声
トランスジェンダーであることをオープンにして、NYを拠点に活動するアーティスト、アノーニ。7年ぶりの新作は、ソウルの名盤、マーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイング・オン』にインスパイアされて作られた。環境破壊や戦争など地球を取りまく問題をテーマにして、ソウルやフォーク、実験音楽など様々な要素を融合。これまで以上に多彩なメロディーが曲に彩りを与えるなかで、性別を超えたエモーショナルな歌声が胸を打つ。その歌声にビョークも涙したとか。
『I've Got Me 』ジョアナ・スターンバーグnow on sale
ほろ苦いガールズ・ブルース
漫画家としての顔も持つ(アルバムのジャケットのイラストは彼女が描いた自画像)、NYのシンガー・ソングライター。遠い昔のフォーク・ソングを思わせるギターやピアノの弾き語りがノスタルジックな雰囲気を醸し出すなかで、無邪気に話しかけてくるような鼻にかかった歌声が特徴。別れた恋人と呑んだくれていた最悪な日々。自己嫌悪から逃れられないことなど、一見、素朴なようで聞いているうちに様々な感情が伝わってくる赤裸々な歌は、ほろ苦いガールズ・ブルース。