ハリウッドを代表する映画監督が映画的手法を駆使して作り上げた子供達の冒険物語


2018年、自身が監督した新作映画『ワンダーストラック』のプロモーションで来日したトッド・ヘインズにインタビュー。

※2018年4月12日に発売されたvol.37からの記事です。インタビューの内容及び、表現などは取材当時のものとなります。

『子供の頃からアートが大好きで、絵をよく書いていたんだ』

 二人の女性の絆をサスペンスフルに描いた『キャロル』がアカデミー賞6部門にノミネートされて、ハリウッドを代表する映画監督としての評価を揺るぎないものにしたトッド・ヘインズ。これまでヘインズは、社会でアウトサイダーとして生きる人々に焦点を当ててきたが、新作『ワンダーストラック』は初めて子供を主人公に据えた物語だ。70年代のミネソタで、母親を事故で亡くしたベンは、落雷事故で聴覚が麻痺しながら一度も会ったことがない父親を探してNYへと旅立つ。一方、20年代のニュージャージーで、生まれた時から耳が聞こえない少女ローズは、憧れの女優、リリアンに会うためにNYへと向かう。そして、時を隔てて同時進行する2つの物語は、やがて自然史博物館を舞台に交差する。子供の物語を描くにあたって、その意気込みをヘインズはこんな風に語ってくれた。

WonderStruck

 「この映画は、二人の子供たちがNYで人生の問いの答えを探す物語なんだ。だから、初めてNYにやって来た子供たちが体験することを、二人の視線を大切にしながら客観的に描きたいと思った。そのために、ヴィジュアル面はもちろん、音楽やサウンドデザインなど、いろんな映画的手法を駆使したんだ。とくに主人公の二人が耳が聞こえないことを、観客に映画を通じて体験してほしかった。だから、実際に耳が聞こえないミリセト・シモンズをローズ役にキャスティングできたのは幸運だったよ。彼女は素晴らしい演技で、耳が聞こえないという体験を観客に伝えてくれたんだ」

WonderStruck

 そんな子供達の熱演に応えるように、映画は緻密に作り上げられている。ローズのパートはモノクロで音声を入れないサイレント映画風。ベンのパートはザラついた色彩でニューシネマ風と、ヘインズは2つのパートを個性豊かに対比させている。大学でアートを学んでいたヘインズは、映画を撮影する前にイメージ・ブックを作ってスタッフに配るらしく、取材では実物のコピーを見せてくれた。

 「脚本を書き終わった後、視覚的にどんな感じで撮るのか考えるためにイメージ・ブックを作るんだ。古いポストカードや雑誌の切り抜き、映画の場面写真、僕がロケハンの時に撮った写真、いろんなものを使ってね」

 そんなイメージブックの表紙に使われているのは、様々なオブジェを箱にコラージュのように並べる作風で知られるジョセフ・コーネルの作品だ。

 「コーネルは大好きなアーティストなんだ。この映画のイメージを考えた時、最初に思い浮かんだのがコーネルの箱だった。子供って自分が好きなものを箱に集めたりするだろ? いろんなものがコレクションされている自然史博物館と、コーネルの作品や子供達の宝の箱のイメージが重なったんだ」

 あなたも子供の頃に大切な箱を持っていました? と訊ねると、ヘインズはにっこり笑って頷いた。

 「オブジェを集めるのが大好きだったからね。それに物を捨てるのが苦手だったし(笑)。僕は子供の頃からアートが大好きで絵をよく描いてたんだ。でも、いちばん好きだったのは映画。3歳の時に『メリーポピンズ』を見て衝撃を受けた。そして9歳の時に初めて自分で映画を作ったんだ。その頃、大好きだった映画『ロミオとジュリエット』を自分で撮ろうと思って、全部の役を自分で演じた。演じるのも大好きだったからね」

 NYという新しい世界を探検する子供達の姿を描いた『ワンダーストラック』を通じて、ヘインズは少年時代の夢を思い出していたのかもしれない。もが子供の頃に感じたワンダーな感動が、この映画には鮮やかに刻み込まれている。

『ワンダーストラック』

1977年、母親を交通事故で亡くした少年ベンは、一度も会ったことがない父親を探してNYに向かう。50年前の1927年、耳が聞こえない少女ローズは憧れの女優に会うためにNYへ。50年の時を隔てた二人の物語は同時進行しながら、やがて強い絆で結ばれていく。ローズのエピソードをモノクロのサイレントにするなど、趣向を凝らしたスタイルで少年少女の冒険を描いた感動作。

監督:トッド・ヘインズ 出演者:オークス・フェグリー、ジュリアン・ムーア、ミシェル・ウィリアムズほか
配給:KADOKAWA(c) 2017 AMAZON CONTENT SERVICES LLC

トッド・ヘインズ(映画監督)
1961年1月2日、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。’11年にケイト・ウィンスレット主演のTVドラマ「ミルドレッド・ピアース 幸せの代償」で監督・共同脚本を務め、ゴールデン・グローブ賞3部門受賞、エミー賞21部門ノミネート、同賞5部門を受賞。パトリシア・ハイスミス原作「The Price of Salt」の映画化『キャロル』(16)では、ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラを主演に迎え、アカデミー賞®6部門、ゴールデン・グローブ賞5部門、BAFTA9部門にノミネートされるなど賞レースを騒がせ、BFIによる「史上最高のLGBT映画30」の第1位に輝いた。

photograph:Otsuka Kazuhiko、text:Murao Yasuo