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ロヘナ・ゲラ(脚本家/映画監督)

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ラブストーリーというスタイルで、インド社会の難しいテーマを美しく描く
― ロヘナ・ゲラ(脚本家/映画監督)

 

    ロヘナ・ゲラ
    1973年生まれ。インド、プネー出身。カリフォルニアのスタンフォード大学とニューヨークのサラ・ローレンス大学で学ぶ。1996年、パラマウント・ピクチャーズ、文学部門でキャリアをスタート。以降、助監督、脚本家、インディペンデント映画の製作/監督などを経験。今作が監督として望んだ長編映画のデビュー作となる。

脚本家からカンヌも注目する映画監督へ。
監督として長編デビューを終えた彼女に迫る。

インド社会に存在する階級。その問題を恋愛という切り口で描き出した一本の映画が、2018年のカンヌ国際映画祭で注目を集めた。インドの大都会、ムンバイ。田舎からやって来たラトナは、結婚を控える大会社の御曹司、アシュヴィンのマンションで住み込みのメイドとして働くことになる。ところが、アシュヴィンは婚約者と破局。ラトナは傷心のアシュヴィンの世話をするうちに心惹かれていくが、それはインドでは決して許されないことだった。インドの現実を切り取ったラブストーリー、『あなたの名前を呼べたなら』の脚本・監督を手掛けたのは、本作がデビュー作となるロヘナ・ゲラ監督。この物語が生まれた背景を、彼女はこんな風に語ってくれた。

 「インドでは、とても安い賃金でメイドを雇えます。私の家にもメイドがいて普段は仲良くしているのですが、食事をする時は家族と離れて床に座って食べるんです。その姿を見て、子供の頃から〈どこか間違ってる〉と思っていましたが、その気持ちを誰にも話すことはできませんでした。18歳でアメリカに留学して、インドに帰国する度に階級や差別のことを考えるようになったんです。それを説教臭くなく物語にするにはどうしたらいいんだろう、と考えた時にラブストーリーというスタイルを思いつきました。そうすることで、難しいテーマを美しく描くことができるんじゃないかと思ったんです」

 打ち解けることは許されず、他人行儀なまま惹かれあっていく二人。ちょっとした視線や仕草から、相手の気持ちを読み取る繊細な恋が展開していく。
 「ひとつのアパートのなかに2つの世界がある。それが脚本のコンセプトでした。一緒に暮らしているから相手のことはよく知っているのに、そこには見えない壁がある。それは私が子供の頃から感じていたことでした」
 その壁が恋愛によって越えられるのか、というのが本作のテーマのひとつ。同時に本作は、ひとりの女性が自立を目指す物語でもある。インドでは未亡人は社会に出て行くことができず、日陰の存在においやられてしまうとか。しかし、ラトナはファッションデザイナーになることを夢見て、稼いだお金で仕立ての教室に通う。彼女は決して諦めない。
 「田舎から出て来た彼女が成長していく姿を、ファッションを通じて表現したいと思いました。最初、彼女は普通の青いサリーを着ているのですが、次第に柄物を組み合わせるようになります。そして、その組み合わせがだんだん大胆に、個性的になっていく。女性は男性以上に衣装で自分を表現します。ラトナにとって衣装は自己表現でもあるのです。あと、私はサリーが大好きなので、観客の皆さんにいろんなサリーを見てもらいたかったんです(笑)」
 でも、階級が厳しいインド社会で、ラトナのような女性がファッションデザイナーになることはありうるのだろうか。
 「とても難しい道のりですがあり得ます。ファッションデザイナーを目指すという設定にしたのは、実現可能だと思ったからです。もちろん、才能や大変な努力、そして大きな運が必要ですが、ムンバイのファッション・デザイナーは全員が裕福な上流階級出身というわけではなくて、小さな町の出身者もいますからね」

 ゲラ監督自身、映画という世界でラトナのように夢を追いかけている女性のひとりだ。脚本家としてキャリアをスタートした彼女は、これからも監督として映画を撮り続けたいと目を輝かせた。
 「監督という仕事は苦労が多いですが、いろんな人とコラボレーションできる。それが脚本を書くのとは大きな違いです。今回は良いスタッフに恵まれて、みんなが支えてくれました。これからも、人と一緒に成長するという素晴らしい体験をしたいと思っています」

 


『あなたの名前を呼べたなら』

Bunkamuraル・シネマ他にて全国公開中
監督名 : ロヘナ・ゲラ
出演者 : ティロタマ・ショーム、ヴィヴェーク・ゴーンバル
配給 : アルバトロス・フィルム
© Inkpot Films

official site:http://anatanonamae-movie.com

 

 

CLUÉL vol.52掲載(先行公開)

  • interview & text:Murao Yasuo
  • photograph:Kojima Yohei
  • ワンピース¥40000/ne Quittez pas(ヌキテパ)