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アグニェシュカ・スモチンスカ

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『キャラクターの感情が伝わるような歌やダンスになっていることがいちばん大切』
― アグニェシュカ・スモチンスカ/映画監督

 

アグニェシュカ・スモチンスカ

1978年生まれ。『ゆれる人魚』は長編映画デビュー作。ポーランド最大の映画祭、グディニャ映画祭で新人監督賞とメイキャップ賞を受賞。間違いなく、ポーランドの若手映画作家のなかでもっとも才能あふれる女性監督である。

official site:http://www.yureru-ningyo.jp

 

ガーリーでホラーな人魚映画に世界が注目
ポーランド映画界、期待の新鋭がデビュー

昨年、サンダンス映画祭をはじめ、世界中の映画祭で、キュートな人魚姉妹が話題を呼んだ。二人の名前はゴールデンとシルバー。ワルシャワのナイトクラブに迷い込んだ彼女達は、得意のダンスと歌を披露してクラブのスターになる。ところが、二人の大好物は人間だった!そんなガーリーでホラーなミュージカル映画『ゆれる人魚』を監督したのは、本作が長編デビュー作となるポーランドの新鋭、アグニェシュカ・スモチンスカだ。もともと本作は、ポーランドの人気バンド、バラディ・イ・ロマンセの中心メンバー、ヴロンスキ姉妹の自伝的作品として企画がスタートしたとか。映画が生まれた経緯を、アグニェシュカはこんな風に説明してくれた。

「最初はヴロンスカ姉妹の子供時代を映画化するという企画だったんです。でも、結局その企画は流れてしまって、姉妹を人魚ということして、改めて物語を作り直したのが本作なんです。設定は変わったけど、映画で使う曲はヴロンスカ姉妹にお願いしました。彼女達の音楽はエモーショナルなところが魅力で、それは映画にも大きな影響を与えていると思います」

姉妹を人魚に置き換えた理由については、「少女達が大人になるメタファーとして面白いと思ったから」だとか。海の世界しか知らなかった姉妹が陸に上がり、人間社会で初めてタバコやお酒、そして、恋を知るという展開は、まさに青春映画だ。ヒロインの姉妹を演じたマルタ・マズレクとミハリーナ・オルシャンスカのピュアな存在感も光っている。

    『ゆれる人魚』
    新宿シネマカリテほかにて公開中
    ©2015WFDIF,TELEWIZJA POLSKA S.A,PLATIGE IMAGE

「撮影に入る前にワークショップをやって、人魚の気持ちになるためのエクササイズをいろいろやったんです。例えば足を縛ってみてみたり、その後、それをほどいて、初めて2本足で歩く人魚の感覚を想像してみたり。心理面だけではなく、身体の動きも含めて二人と一緒に考えていきました」

そんな人魚姉妹が見せる歌とダンスも、本作の大きな魅力。アグニェシュカによると、「とってつけたようなミュージカル・シーンではなく、キャラクターの感情が伝わるような歌やダンスになっていることがいちばん大切だった」という。そして、人魚のデザインを依頼したイラストレイター、アレクサンドラ・ヴァリシェツカの絵や、ナン・ゴールディンの写真からヒントを得たヴィジュアルが妖しいムードを生み出すなか、80年代にポーランドで人気を呼んだレストラン、〈ダンシング〉を物語の舞台にすることで、どこかレトロな雰囲気が映画に反映されている。

「〈ダンシング〉は、いろんな職業の人達が集まって音楽を聴いたり踊ったりするレストランで、私の母親がダンシングを経営していたんです。その店の雰囲気を参考にしながら、今は閉店した有名なダンシングの店を使って撮影しました。私の記憶のなかにある80年代を映画で再現したかったんです」

母親の店で音楽に囲まれて育ったアグニェシュカは、12歳の頃からライヴハウスに通うほどロックが大好きだったものの「歌がヘタで合唱団をやめさせられらことがトラウマになって」音楽の道を断念。やがて映画の魅力に取り憑かれた。映画監督という仕事の魅力は「まったく新しい世界を生み出すことができること」と語るアグニェシュカ。いま彼女は人魚時代を経て、しっかりと二本の足で映画の世界を歩み始めた。
 

 


 

CLUÉL vol.35掲載

  • interview & text:Murao Yasuo
  • photograph:Otsuka Kazuhiko