FEATURE PEOPLE :
熊切 秀典

気になるあの人に会いに行く

 

『いつも相反するものを自分なりに設定してそれをぶつけてみるんです』
― 熊切 秀典/ファッションデザイナー

 

熊切 秀典

神奈川県厚木市出身。ビューティフルピープル(beautiful people)デザイナー。1997年文化服装学院アパレル技術科を卒業。「コム デ ギャルソン」のパタンナーを経て、2004年に独立。外注でパターンを請け負う有限会社エンターテイメントを立ち上げる。2007年春夏からオリジナルブランド「ビューティフルピープル」をスタート。

official site:https://beautiful-people.jp

 

「この年になって言う言葉じゃないですけど、
夢みたいなところもあって」

beautiful peopleのデザイナーである熊切秀典は、パリ・コレクション進出に至った経緯を少し照れながらそう説明する。3月にパリでプレゼンテーションを成功させていよいよ夢を実現した今年は、ブランド設立10周年。第二次創業期だという意識にも後押しされたとか。「ここにきて僕らがやってることを一通り理解してもらえるようになったと思ったんです。ベーシックだけどどこかにズレがあるというbeautiful peopleらしさが認知された今、それと同じことを海外でもやってみたいなと」。

 

そう、10年前に誕生したbeautiful peopleはトラッドの独自解釈や、男女や大人・子供の境界のない服といった革新的提案で、多くのファンを獲得。満を持してのパリ・デビューに際して2017-18年秋冬コレクションでは、ずばり“WAFUKU”をテーマに掲げた。直線的裁断やレイヤードなど和服の特色を、こだわり抜いた素材と技術を駆使して、ヨーロッパのファッション言語に翻訳。表層的な日本っぽさではなく日本人の精神性を重視し、「昔の芸者さんの仕草に潜む意味だとか、和服にあるストーリーや感情の面を学んだ」と熊切は語る。
「去年パリに行った時に森山大道さんの写真展が開催されていたんですが、日本で観た時と全然感覚が違ったんですよね。海外で日本に回帰するというのはありがちな話かもしれない。でも自分の中ですごくしっくり感じられて、“僕らのアイデンティティって何だろう?”というところを表現しようと思い立ちました。そういう意味ではパリ・コレありきのテーマだけど、これまで掘り下げてきた“トラッドをどう新しくするか?”という問いかけに対する回答が、そこあるような気がしたんです」。

 

中でも“アルティメイトピマツイル和服トレンチ”と命名された反物の巾に裁断されたトレンチコートは、まさにその回答と呼べる斬新なトラッド。大きな注目を浴びて、京都服飾文化研究財団に収蔵されることも決まっている。「着物のように畳めるんですが、作っている時からパタンナーと、パリ・デビューを象徴するものになりそうだねと話していました」。もっとも、彼が着目したのは伝統的な日本だけではない。ネオギャルに代表される東京のポップ感覚を、パリジェンヌのユニフォームに組み合わせるという発想からも、遊びのあるユニークなアイテムが生まれた。「僕はいつも何かを作る時にまず相反するものを設定して、それをぶつけたら面白いものが生まれるんじゃないか――みたいな実験をするんです。ネオギャルの髪の色は紫やグリーンだったりしますが、彼女たちの写真をモノクロにすると、まるでブロンドに見える。これは面白いなと思って、モノクロ写真にする とシックに見える、ターコイスなどモンスターぽい色を使ってみました」。

 

そんな風に、今度は和と洋の境界を崩そうと試みたコレクションは、19世紀のジャポニスムに始まった対話を受け継いでいるのだとも熊切は話す。ジャポニスムに影響された、ウィリアム・モリスによるリバティ・プリントが登場するのもそのためだ。beautiful people流に、ネオンカラーで塗り替えた上で。「日本人が初めてパリに大きなインパクトを与えたのはジャポニスムですからね。パリ進出にあたり、もちろん自分のオリジナリティを発揮するところも必要ですが、文脈がないものは受け入れてもらえないのではないかと思ったんです。川久保玲さんら先輩のデザイナーたちも、ヨーロッパの文脈を壊したように見えて、ちゃんと勉強した上で壊したわけだし、僕らもそういう広い文脈を理解した上でやっていきたいですね。

 

 


 

CLUÉL vol.30掲載

  • interview & text:Shintani Hiroko
  • photograph:Murakami Masatomo